
高速道路を走行中、「あのセダンは覆面パトカーかもしれない」と気になった経験はありませんか。覆面パトカーの見分け方として、高速では特に車種やアンテナ、ナンバーに注目が集まります。定番のクラウンだけでなく珍しい車種も存在し、ナンバーが800番だという古い情報に惑わされることもあります。
また、覆面パトカーに気づく方法や、そもそも何キロで捕まるのか、赤色灯が光ったのに捕まらなかったのはなぜか、後日呼び出しの心配はあるのか、といった疑問も尽きません。中には逃げ切る方法を探している方もいるかもしれません。
この記事では、そんな高速での覆面パトカーの見分け方に関するあらゆる疑問に、専門的な視点から詳しく解説していきます。
- 覆面パトカーに多い車種や外観の具体的な特徴
- ナンバープレートに関する正しい知識と見分け方
- 走行パターンから気づく方法と取り締まりの実態
- 違反後の対応や後日呼び出しの可能性について
覆面パトカー見分け方【外観の特徴】

ここでは、覆面パトカーを外観から見分けるための具体的なポイントを解説します。
- 代表的な覆面パトカーの車種とは?
- クラウン以外の珍しい車種も存在する
- 見分け方の鍵?ナンバープレートで判別可能か
- 覆面パトカーのナンバーは800番ではない
- 高速で見る覆面パトカーのアンテナの特徴
代表的な覆面パトカーの車種とは?
交通取り締まりの現場で、一般車両に溶け込みながら違反行為を監視する覆面パトカー。その正体を見分ける上で、まず基本となるのが車種に関する知識です。交通取締用の覆面パトカーには、その任務の特性上、特定の車種が採用される明確な傾向が存在します。
その最も代表的な存在が、長年にわたり日本のセダン市場を牽引してきたトヨタのクラウンです。クラウンがパトカーとして多用される背景には、単なる伝統だけではない、合理的な理由があります。
日本のパトカーの車両規格は、1955年に登場した初代クラウンをベースとしたパトカー「トヨタ・パトロール」が礎となっており、その後の時代ごとの要件に合わせて更新され続けてきました。この歴史的経緯により、クラウンはパトカーとしての最適化が図りやすく、警察組織にとって運用のノウハウが蓄積されているのです。
性能面においても、特に交通取締用として配備されるクラウンは、3.5L V型6気筒エンジンのような大排気量エンジンを搭載したモデルが選ばれ、違反車両を確実に追跡するための高い加速性能と高速走行時の安定性を確保しています。近年では、スポーティな走行性能で知られる210系「アスリート」や、その後継にあたる220系クラウンが全国の高速道路交通警察隊などで主力車両として活躍しています。
もちろん、覆面パトカーはクラウンだけではありません。以下のような車種も、全国で交通取締任務に従事しています。
- トヨタ マークX
クラウンと同じく後輪駆動(FR)レイアウトを採用したスポーティセダンで、高い走行性能から多くの隊で採用されました。 - トヨタ カムリ
前輪駆動(FF)でありながら、優れた走行安定性と居住性を両立したグローバルセダンです。近年、覆面パトカーとしての導入例が増えています。 - スバル WRX S4
水平対向ターボエンジンとシンメトリカルAWD(四輪駆動)システムによる、全天候での圧倒的な走行性能を武器に、特に降雪地域などでその能力を発揮します。 - 日産 スカイライン
クラウンと並ぶ日本の伝統的なスポーツセダンであり、その高い動力性能から覆面パトカーとして採用されています。
これらの車種に共通するのは、第一に違反車両を追跡・確保するための「高い動力性能を持つ4ドアセダン」であるという点です。後部座席は同乗する警察官や、場合によっては検挙した違反者を乗せるために必須であり、セダンという形状は高速走行時の安定性や、一般車両への擬態効果の面でも理にかなっています。
また、外観は一般車両に溶け込むことが最優先されるため、ボディカラーは白、黒、シルバー、グレーといった彩度の低い落ち着いた色がほとんどです。ディーラーオプションで設定されているような派手なエアロパーツや社外品のアルミホイールなどが装着されることはなく、ごく標準的な仕様であることが特徴です。
クラウン以外の珍しい車種も存在する

全国の高速道路や幹線道路で見かける覆面パトカーの多くは、警察庁が予算を確保し、一括で調達して全国の都道府県警察へ配備する「国費導入車両」です。これが、どこへ行ってもクラウンなどの代表的な車種に遭遇する理由です。
しかし、これとは別に、各都道府県警察がそれぞれ独自の予算(都費や県費)を使い、地域の実情に合わせて車両を調達する「都道府県費導入車両」が存在します。この仕組みがあるため、特定の地域でしか見られないような、非常に珍しい車種の覆面パトカーが生まれるのです。
その筆頭として自動車好きの間で有名なのが、スズキの「キザシ」です。キザシは日本国内における市販車の販売台数が極めて少なかった一方で、捜査用の覆面車両として全国の警察にまとまった台数が導入されました。
そのため、「街中でキザシを見かけたら、それは覆面パトカーである可能性が非常に高い」とまで言われるユニークな存在となりました。ただし、多くは交通取締用ではなく、刑事などが使用する捜査用車両です。
交通取締用の珍しい車種としては、以下のような例が挙げられます。
- トヨタ マークX +Mスーパーチャージャー
警視庁にのみ配備された特別な一台です。トヨタのカスタマイズブランド「モデリスタ」が手掛けたこの車両は、スーパーチャージャーを搭載することで最高出力を360馬力にまで高めたハイパフォーマンスモデル。首都高速道路などで高性能な違反車両に対応するために導入されたと考えられています。 - 日産 エルグランド
「覆面パトカーはセダン」という常識を覆す、ミニバンタイプの車両です。車高の高さから得られる広い視界は、交通状況の監視において有利に働きます。一般のファミリーカーに完全に擬態できるため、その存在に気づくのは非常に困難です。 - 日産 エクストレイル
エルグランド同様、SUVタイプの覆面パトカーも存在します。AWDによる悪路や雪道での高い走破性を持ち、多様な環境下での活動が可能です。こちらも一般的なレジャーカーとしての姿に溶け込んでいます。
これらの車両は、国費導入のセダンタイプでは対応しきれない特定の目的や、より高度な擬態効果を狙って導入されていると考えられます。遭遇する機会は稀ですが、「セダンではないから覆面パトカーではない」という先入観は持たない方が賢明です。
見分け方の鍵?ナンバープレートで判別可能か
覆面パトカーを外観だけで特定するのが難しい中、ナンバープレートは車種やボディカラーと並んで重要な判断材料となります。ナンバープレートの情報だけで100%の確信を得ることはできませんが、可能性を大きく絞り込むための有力な手がかりを与えてくれます。
「管轄区域」の原則を理解する
最も基本的かつ重要なポイントは、その車両が「走行している地域のナンバープレート」を付けているかという点です。日本の警察官の職務権限は、警察法に基づき、基本的には所属する都道府県の管轄区域内に限定されています(出典:e-Gov法令検索『警察法』第六十一条)。
つまり、交通取締りを行う覆面パトカーが、特別な事情がない限り管轄の都道府県境を越えて活動することは原則としてありません。
例えば、京都府内の高速道路を走行している不審なセダンが「なにわ」や「神戸」ナンバーであった場合、それが京都府警の覆面パトカーである可能性は極めて低いと判断できるのです。この「地元ナンバーの原則」は、非常に信頼性の高い絞り込み条件と言えます。
ナンバーの数字とひらがなに見る傾向
ナンバープレートを構成する4桁の一連指定番号にも、覆面パトカーならではの傾向が見られます。一般のドライバーには「7777」のようなゾロ目や、「2525(ニコニコ)」といった語呂合わせの希望ナンバーが人気ですが、覆面パトカーでこうしたナンバーが使用されることはまずありません。
これは、特定の番号が目立つことを避け、一般車両の中に完全に埋没させるため、そして大量の車両を効率的に登録・管理する上で、払い出しの番号をそのまま使用するのが合理的であるためと考えられます。
また、ナンバープレートのひらがな部分にも注目です。事業用の車両に割り当てられる「あいうえかきくけこを」や、レンタカーを示す「わ」「れ」が使われている車両は、覆面パトカーの候補から除外してよいでしょう。
これらの要素を総合すると、「走行している地域のナンバープレート」で、「特に特徴のない一般的な4桁の数字」を持ち、「レンタカーなどではない」車両は、覆面パトカーの可能性を考慮すべき対象となります。
覆面パトカーのナンバーは800番ではない

かつて、覆面パトカーを見分けるための常識として広く知られていたのが「8ナンバー(分類番号が800番台)」の存在です。しかし、この知識は現在では完全に過去のものとなっており、この古い情報に頼っていると、目の前の覆面パトカーを見過ごしてしまうことになります。
なぜ過去は「8ナンバー」だったのか
そもそも「8ナンバー」とは、道路運送車両法で定められた「特殊用途自動車」に割り当てられる分類番号です。具体的には、パトカーや消防車のような緊急車両のほか、放送中継車、キャンピングカーなど、特定の目的に特化した装備を持つ車両がこれに該当します。
覆面パトカーも、車内に反転式の赤色灯やサイレンアンプといった特殊な装備を搭載しています。そのため、以前はこれらの装備を取り付ける改造を行った車両として「構造等変更検査」を受け、「特殊用途自動車」として8ナンバー登録するのが一般的でした。この8ナンバーという特徴が、結果として覆面パトカーの存在を外部に示すサインとなってしまっていたのです。
現在は「3ナンバー」が主流である理由
警察側もこの弱点を認識しており、より一般車両への擬態効果を高めるため、運用方針を大きく転換しました。現在では、自動車メーカーがパトカーとして使用されることを前提に、必要な装備をあらかじめ織り込んだ状態で車両を設計・製造し、国の型式認定を取得しています。
これにより、警察が車両を導入した後に特別な改造を施す必要がなくなり、「改造車」ではなく、市販車と同じ一般的な「乗用車」として登録されることになりました。その結果、交通取締用の覆面パトカーは、クラウンやスカイラインのような普通乗用車と同じ「3ナンバー」(排気量2000cc超)、または車種によっては「5ナンバー」(排気量2000cc以下)を付けています。
この「8ナンバー神話」は、インターネットの黎明期に広まった情報が更新されないまま残存していることで、今なお信じている人が少なくありません。覆面パトカーを見分ける上では、まずこの古い常識を捨て、現在の正しい仕様を理解しておくことが不可欠です。
高速で見る覆面パトカーのアンテナの特徴
覆面パトカーが一般車両と決定的に異なる点の一つが、警察業務に不可欠な無線通信システムを搭載していることです。そして、その通信のために必ずアンテナが存在しますが、これもまた巧妙に偽装され、年々その見分けは困難になっています。
アンテナの種類と進化
覆面パトカーのアンテナにはいくつかの種類があり、時代と共にその形状は変化してきました。
- TAアンテナ(トランクリッドアンテナ)
過去に主流だったタイプで、トランクフードの端にクリップで取り付けられた、いかにも「後付け」といった風情のアンテナです。現在ではほとんど見られなくなりました。 - ユーロアンテナ
ルーフの後方中央に取り付けられる短い棒状のアンテナです。元々は欧州車でラジオ用として流行したデザインですが、これを無線アンテナとして流用しています。市販のセダンでは、現在ルーフと一体化した「ドルフィンアンテナ」が主流であるため、最新モデルのセダンにユーロアンテナが付いている場合、覆面パトカーである可能性を考慮する一つの材料になります。 - 偽装アンテナ・ガラスアンテナ
近年の覆面パトカーでは、さらに偽装のレベルが上がっています。外見上はカーナビのGPSアンテナやテレビアンテナと見分けがつかないものや、リアガラスの熱線に紛れるようにプリントされたフィルム状の「ガラスアンテナ」が採用されるなど、外部からアンテナの存在を視認することはほぼ不可能です。
アンテナによる判別の限界
このように、アンテナによる判別は年々難易度が上がっており、特に最新の覆面パトカーについては、アンテナの有無や形状だけで断定することはできません。「怪しいアンテナが付いていないから大丈夫」と安易に判断するのは非常に危険です。
アンテナはあくまでも数ある判断材料の一つとして捉え、後述する走行パターンや乗員の様子といった、他の複数の特徴と合わせて総合的に推測することが、見分ける上での精度を高める鍵となります。
覆面パトカー見分け方【行動と対策】

車両の外観情報に加え、その「走り方」、つまり挙動にこそ、覆面パトカーの本質が隠されています。ここでは、その独特な行動パターンを読み解き、万が一の際に備えるための知識を深掘りしていきます。
- 走行パターンで覆面パトカーに気づく方法
- 速度超過は何キロで捕まるのか
- 赤色灯が光っても捕まらなかった理由
- スピード違反で後日呼び出しはあるのか
- 覆面パトカーから逃げ切る方法は存在する?
走行パターンで覆面パトカーに気づく方法
違反車両を探している覆面パトカーは、獲物を狙う狩人のように、周囲の交通に気配を消して溶け込んでいます。しかし、そのプロフェッショナルであるがゆえの極めて模範的な運転や、獲物を見つけた瞬間の豹変ぶりに、その正体を見破るヒントが隠されています。
模範的すぎる「潜伏走行」
覆面パトカーが最も多くの時間を費やすのが、この「潜伏走行」です。その特徴は以下の通りです。
- 走行車線の徹底
片側2車線以上の高速道路において、覆面パトカーは決して追い越し車線を走り続けることはありません。これは、道路交通法第二十条で定められた「車両通行帯」のルールを遵守しているためです(出典:e-Gov法令検索『道路交通法』第二十条)。取り締まる側が通行帯違反を犯すことはないため、彼らは追い越しが完了すれば速やかに走行車線(一番左側の車線)に戻ります。 - 法定速度の厳守
周囲の車両が流れに乗って多少速度を上げていても、覆面パトカーは制限速度を頑なに守って走行します。このため、追い越し車線を速いペースで走る車から見れば、「走行車線をゆっくり走る、少し邪魔なセダン」に見えることがよくあります。 - 安定した挙動
車線をはみ出したり、不必要な加減速を繰り返したりすることなく、常に車線の中央を安定して走行します。車間距離も十分に保ち、その運転はまさに教習所のお手本そのものです。
「追跡モード」への豹変
この模範的な潜伏走行は、ロックオンする違反車両を見つけた瞬間に一変します。それまでの穏やかな動きが嘘のように、鋭い加速と共に車線変更を行い、猛然と追跡を開始するのです。この「静」から「動」への急激な変化こそ、覆面パトカーを識別する最大のサインです。
また、並走した際に、ドライバーや助手席の乗員が頻繁にミラーを確認し、周囲の車両の動向をうかがっている様子が見て取れることもあります。制服(青い活動服)を着た警察官が2名で乗車していることが確認できれば、その確度はさらに高まります。
狙われやすい「待機場所」
走行中だけでなく、覆面パトカーが潜んでいることが多い場所も知っておくとよいでしょう。
- SA/PAの本線合流路付近
休憩を終えてリラックスしたドライバーが、本線に合流する加速車線でついアクセルを踏みすぎてしまうのを狙っています。 - インターチェンジの入口・料金所通過後の路肩
高速道路に入り、これから速度を上げようとする車両を捕捉するのに最適なポイントです。
これらの場所で不自然に停車しているセダンタイプの車両には、特に注意を払う必要があります。
速度超過は何キロで捕まるのか

「一体、制限速度を何キロ超えたら覆面パトカーに捕まるのか」という疑問は、多くのドライバーが抱くものです。しかし、この問いに対して「〇〇km/h以上」という警察が公表した明確な基準は存在しません。
なぜ明確な基準が公表されないのか
警察が取り締まりの具体的な基準速度を公表しないのには、明確な理由があります。もし「制限速度80km/hの道路では、100km/hまでは検挙しない」といった基準を公にしてしまうと、多くのドライバーが「100km/hまでなら出しても安全だ」と誤って解釈し、実質的な制限速度が形骸化してしまう恐れがあるからです。これは交通の安全を著しく損なう事態につながりかねません。
取り締まりは、その時々の道路状況、交通量、天候、事故の発生状況などを現場の警察官が総合的に判断して行われます。したがって、たとえわずかな速度超過であっても、例えば通学路の周辺や悪天候時など、危険性が高いと判断されれば検挙の対象となる可能性は十分にあります。
「追尾式」による精密な速度測定
覆面パトカーによる速度違反の取り締まりは、「追尾式速度測定」という方法で行われます。これは、違反が疑われる車両の後方に一定の車間距離を保って追走し、覆面パトカーに搭載された「ストップメーター」と呼ばれる専用の速度計測装置を使用して、対象車両の速度を正確に割り出すものです。
この測定は、ただ後ろを走るだけではありません。測定誤差をなくすため、覆面パトカーのドライバーは、対象車両と完全に同じ速度、同じ車間距離を保ったまま、高速道路では数百メートルにわたって追尾を続けます。
この等速・等間隔での追尾走行が成立した区間の、時間と距離から平均速度を算出し、違反速度として確定させるのです。このため、覆面パトカーのドライバーには極めて高度な運転技術が求められます。
測定が完了し、違反が確定すると、赤色灯を点灯させ、サイレンとマイクによる停止命令が出されます。速度超過に対する違反点数と反則金(普通車の場合)の目安は以下の通りです。
超過速度 | 違反点数(高速道路) | 反則金(普通車) | 備考 |
---|---|---|---|
1km/h 〜 14km/h | 1点 | 9,000円 | |
15km/h 〜 19km/h | 1点 | 12,000円 | |
20km/h 〜 24km/h | 2点 | 15,000円 | |
25km/h 〜 29km/h | 3点 | 18,000円 | |
30km/h 〜 34km/h | 3点 | 25,000円 | 一般道では6点 |
35km/h 〜 39km/h | 3点 | 35,000円 | 一般道では6点 |
40km/h以上 | 6点以上 | なし(刑事罰) | 簡易裁判で罰金刑が決定 |
特筆すべきは、高速道路で40km/h以上(一般道では30km/h以上)の速度超過です。これは、反則金を納付すれば刑事手続きが免除される「交通反則通告制度」の対象外となる重大な違反と見なされ、「赤切符」が交付されます。
この場合、後日簡易裁判所へ出頭し、裁判官の審理によって罰金額(多くは数万円から10万円程度)が決定されるという、重い行政処分および刑事罰が科されることになります。
赤色灯が光っても捕まらなかった理由

後方から迫る車両のルーフから赤色灯が現れ、一瞬にして血の気が引く――。そんな経験をしたドライバーもいるかもしれません。しかし、赤色灯が光ったにもかかわらず、停止を求められることなく、そのまま走り去られたというケースも報告されています。これには、交通取り締まりの現場におけるいくつかの事情が関係しています。
「警告」としての赤色灯の役割
最も多い理由の一つが、検挙ではなく「警告」を目的として赤色灯が使用されたケースです。交通警察の最も重要な使命は、違反者を検挙することそのものではなく、危険な運転行為を止めさせ、交通事故を未然に防ぐことにあります。
ドライバーが赤色灯の点灯に気づき、即座にアクセルを緩め、制限速度内にまで減速するなどの是正措置をとった場合、現場の警察官は「これ以上の危険はない」と判断し、あえて停止を求めずに警告に留めることがあります。
これは、現場の状況に応じて警察官に与えられている一定の「裁量権」に基づくものです。懲罰的な措置よりも、ドライバー自身の気づきを促す予防的な措置が優先された結果と言えるでしょう。
その他の技術的・戦術的な理由
また、以下のような理由も考えられます。
- 測定失敗
追尾による速度測定の途中で、他の車両が間に割り込んできたり、対象車両が不規則な加減速を行ったりしたことで、正確な測定が継続できなくなり、検挙を断念したという可能性です。 - 優先順位の変更
警告を与えた車両よりも、さらに危険かつ悪質な運転を行う別の車両を発見し、そちらの追跡・検挙を優先したという戦術的な判断も考えられます。
いずれにせよ、ドライバーにとって重要なのは、赤色灯が点灯し、かつサイレンを鳴らしてマイクで明確に「前の車、左に寄って止まりなさい」といった停止命令を受けない限り、検挙は確定していないという点です。赤色灯に気づいた際は、決してパニックにならず、まずは冷静にアクセルから足を離し、安全を確認しながら走行車線へ移動し、穏やかに制限速度まで減速するという対応が賢明です。
スピード違反で後日呼び出しはあるのか
覆面パトカーによる取り締まりを目撃したり、自身が追尾されたかもしれないと感じたりした後に、「後日、警察から呼び出しの通知が来るのではないか」と不安になる方もいるでしょう。しかし、結論から言えば、その可能性は極めて低いと考えられます。
交通違反における「現行犯検挙」の大原則
日本の刑事手続きの基本である刑事訴訟法では「現行犯逮捕」が定められており、交通違反の取り締まりもこの「現行犯主義」の原則に強く依拠しています。つまり、違反行為が行われたその場で、違反の事実と違反者(運転者)を直接確認し、検挙手続きを行うのが基本です。
この原則が重視される最大の理由は、「運転者の特定」にあります。道路交通法の罰則は、車検証に記載されている車両の「所有者」や「使用者」ではなく、実際に違反行為を行った「運転者」に対して科されます。
後日、車両のナンバーから所有者を割り出したとしても、所有者が「その時間は家族が運転していた」「友人に貸していた」などと主張した場合、警察は実際に誰が運転していたのかを改めて立証しなければならず、そのハードルは非常に高くなります。
そのため、覆面パトカーによる速度違反の取り締まりは、後々の紛争を避けるためにも、その場で車両を停止させ、運転免許証で運転者を直接確認した上で切符処理を行うという運用が徹底されているのです。
後日呼び出しが行われる例外的なケース
ただし、現行犯検挙が原則であっても、後日呼び出しが行われる例外的なケースは存在します。
- 自動速度違反取締装置(オービス)
固定式、移動式を問わず、オービスは違反車両のナンバーと運転者の顔を鮮明に撮影・記録します。これは運転者を特定する強力な証拠となるため、後日、車両の所有者宛てに警察から出頭を求める通知書が郵送されます。 - 悪質な逃走事案
覆面パトカーの停止命令を振り切って逃走した場合、事態は単なる速度違反から、公務執行妨害やひき逃げ(事故を誘発した場合)といった、より悪質な刑事事件へと発展します。警察は防犯カメラの解析や聞き込みなど、本格的な捜査を行い、後日運転者を特定して逮捕に踏み切る可能性が非常に高くなります。 - 第三者からの通報(ドライブレコーダー映像など)
近年、悪質な「あおり運転」などが他の車両のドライブレコーダーに記録され、その映像が警察に提供されることで後日検挙に至るケースが増えています。ただし、単なる速度超過程度で映像が持ち込まれても、警察が捜査に乗り出すことは稀で、社会的な影響が大きい危険な事案に限られるのが実情です。
これらの例外を除けば、「覆面パトカーに停止を求められなかった」のであれば、それは「検挙されなかった」と判断してまず間違いありません。過度に心配する必要はないでしょう。
覆面パトカーから逃げ切る方法は存在する?

もし、高速道路上で覆面パトカーに停止を求められたら。その瞬間、頭が真っ白になり、「逃げる」という選択肢が一瞬頭をよぎるかもしれません。しかし、その選択は、あなたの未来を大きく損なう、最も避けるべき道につながっています。結論から申し上げると、高速道路上で覆面パトカーから逃げ切ることは、現実的に不可能です。
圧倒的な性能差と追跡技術
まず、車両の性能が根本的に異なります。覆面パトカーとして採用されるクラウンやWRX S4などの車両は、元々高い動力性能を持っていますが、それに加えてパトカーとしての特殊な運用に耐えられるよう、ブレーキ系統やサスペンション、タイヤなどが強化されている場合があります。市販車と同じ感覚で振り切れると考えるのは、あまりにも楽観的です。
逃げ場のない警察の包囲網
仮に一時的に引き離せたとしても、そこからが本当の追跡の始まりです。覆面パトカーのドライバーは、即座に無線で応援を要請し、逃走車両のナンバー、車種、色、進行方向といった情報を警察の通信指令室と共有します。
- 陸からの包囲
指令を受けた他のパトカーや白バイが、前方のインターチェンジ出口やジャンクション、本線料金所などで待ち伏せ、進路を封鎖します。 - 空からの追跡
都道府県によっては警察航空隊のヘリコプターが出動し、上空から逃走車両の動きを完全に捕捉します。渋滞や信号に影響されない空からの目からは、決して逃れることはできません。 - Nシステムによる監視
全国の主要な道路に設置された「自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)」が、逃走車両の通過情報を次々と記録し、警察は車両の正確な位置と移動ルートをリアルタイムで把握します。
このように、一台の覆面パトカーから逃げるという行為は、実際には警察組織全体の高度な連携システムを相手にすることと同義であり、一個人がそれに抗うのは不可能なのです。
逃走行為がもたらす法的・社会的な重い代償
そして何よりも知っておくべきは、逃走という行為がいかに「割に合わない」かという点です。単なる速度違反(行政処分)で済むはずだったものが、逃走したことによって以下のような、より重い罪に問われる可能性があります。
- 公務執行妨害罪
警察官の職務を妨害したとして、逮捕・起訴される可能性があります。 - 累積する交通違反
逃走中は信号無視やさらなる速度超過など、無数の違反を重ねることになり、違反点数はあっという間に免許取消の基準に達します。 - 危険運転致死傷罪
逃走中に事故を起こし、他人を死傷させた場合、極めて重い罰則が科される危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。
たった一度の誤った判断が、懲役刑や多額の罰金、免許の長期取消、そして職や社会的信用など、人生における全てを失う事態を招きかねません。覆面パトカーに停止を求められた際は、速やかに安全な場所に停車し、冷静に警察官の指示に従うこと。それが、自らの未来を守るための唯一かつ最良の対応です。
覆面パトカーの見分け方について総括
本記事で解説した重要なポイントをまとめます。
- 覆面パトカーは交通違反の抑止と事故の未然防止を目的としている
- 代表車種はクラウンだが、マークXやカムリ、WRXなども存在する
- 近年ではSUVなどセダン以外の珍しい車種も地域によっては導入されている
- 車体の色は白・黒・シルバーなど、周囲に溶け込む落ち着いた色が主流
- 走行している都道府県と同じ「地元ナンバー」を付けていることがほとんど
- ナンバーが800番というのは過去の話で、現在は一般車と同じ3ナンバー
- 偽装された無線アンテナや、2つ設置されたルームミラーが特徴的な場合がある
- ルーフ中央に反転式赤色灯を格納するための四角い切れ込みがあることも
- 追い越し車線ではなく、走行車線を法定速度で走り続ける車両は要注意
- 模範的な運転から、違反車両を発見した際に急加速するのが大きな特徴
- 速度違反の取り締まりは現行犯検挙が原則で、後日呼び出しは極めて稀
- 赤色灯が点灯してもサイレンによる停止命令がなければ警告の可能性もある
- 高性能な車両と警察の連携網により、高速道路で逃げ切ることは不可能
- 覆面パトカーを探す運転ではなく、常に交通全体の状況を把握する運転を
- 見分け方の知識以上に、交通法規を遵守する意識が最も確実な対策である
高速道路は、一瞬の油断が重大な事故につながる場所です。覆面パトカーの存在を意識することは、結果として車間距離の確保や速度の抑制につながり、ご自身の安全を守ることにもなります。
見分け方の知識は、あくまで安全運転意識を高めるための補助として活用し、すべてのドライバーが交通社会の一員としての責任を自覚すること。それこそが、覆面パトカーの存在を気にすることなく、心からドライブを楽しむための唯一で最良の方法です。